✅ 青年期とは何か ー 自己形成と社会との関わり
1. 青年期の定義と特徴
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青年期とは:子どもから大人へと成長していく過渡的な時期。おおむね12歳頃から20歳前後まで。
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身体的成熟(第二次性徴):急激な身体変化と性ホルモンの増加によって、外見も内面も大きく変化する。
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心理的・社会的課題:親からの自立、将来の進路の選択、価値観の確立、人間関係の模索などが生じる。
エリク・H・エリクソン(1902–1994)は、青年期を「心理社会的モラトリアム(猶予期間)」と呼び、自己探索と社会への適応の間で揺れる時期と定義しました。
2. 自我のめざめとアイデンティティの模索
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自我のめざめ:周囲と自分を区別し、「私は何者か」を意識するようになる。
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アイデンティティの確立(自我同一性):自分の価値観や生き方、社会的役割を明確にする課題。
🧠 エリクソンの発達課題(アイデンティティ vs アイデンティティ拡散)
青年期は「自分らしさ」を確立することが求められる。これに失敗すると、将来への不安や社会的孤立につながる。
🔍 エリク・エリクソンの発達理論と青年期の課題
1. エリクソン理論の概観
エリクソン(1902–1994)は、ジークムント・フロイトの精神分析理論を基盤にしながら、**社会的・文化的側面を重視した発達理論(心理社会的発達理論)**を構築しました。
彼は人間の発達を**ライフサイクル(人生周期)**として捉え、誕生から老年期に至るまでの発達課題を8段階に体系化しています。
🔑 特徴的なのは、「各発達段階において克服すべき心理社会的危機(psychosocial crisis)が存在する」とした点です。
2. 青年期の発達課題:アイデンティティ vs アイデンティティ拡散
青年期(12歳~18歳頃)において、エリクソンが提唱した発達課題は:
「アイデンティティの確立 vs アイデンティティの拡散(identity vs role confusion)」
これは、青年が「私は誰か」「私はどのような価値観を持ち、どう生きるか」という問いに向き合う時期であり、それを乗り越えた者は「忠誠(fidelity)」という美徳を獲得するとされます。
3. アイデンティティの構造と哲学的含意
🧩【構造論的視点】
アイデンティティは以下の3層構造を持つとされます:
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個人的アイデンティティ(self-concept)
:自分自身の一貫した理解(能力、性格、願望) -
社会的アイデンティティ(social identity)
:ジェンダー、民族、宗教、国家など、社会の中での所属と役割 -
物語的アイデンティティ(narrative identity)
:自らの人生を意味づける語り(ナラティブ)としての自己
このモデルは、ポール・リクールの「ナラティブ・アイデンティティ」やチャールズ・テイラーの「承認の倫理」とも関連し、哲学的・文化的アイデンティティ論へと接続されます。
4. 現代的文脈におけるアイデンティティの不安
エリクソンの理論は戦後アメリカ社会を背景にしていますが、現代において以下のような新たな文脈が生まれています。
🌐【現代的問題点】
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「青年期の長期化」:教育年限の延長、非正規雇用、不安定な労働
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「選択肢の過剰と自己決定の重圧」:SNS時代における自己ブランディングと承認欲求
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「マルチアイデンティティ」:グローバル化・越境的文化交流の中での混在した自己像
これらはZygmunt Baumanの「流動する近代(liquid modernity)」やAnthony Giddensの「再帰的近代(reflexive modernity)」に通じ、青年の不安定な自己を社会構造から捉える視座を提供します。
5. 道徳教育・倫理教育における応用的示唆
🎓 教育実践における意義
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「正解」を与えるのではなく、「問い続ける力」「意味づける力」を育てる
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批判的思考・自己省察・ナラティブの生成を支える環境の整備
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教育とは、アイデンティティ獲得の**社会的実験場(moratorium)**である
📘 教科「倫理」との統合的観点
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アリストテレスの「良き生」:エートス(習慣)とフロネーシス(実践的知恵)
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カントの「人格の自律」:自己決定に基づく普遍的道徳法則の自律性
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現代思想における「他者との関係性」(レヴィナス、ハーバーマス):承認・公共性・討議倫理
6. 結論:青年期とは「倫理的主体」への通過儀礼である
エリクソンの理論は、単なる心理的発達段階の記述ではなく、青年が**倫理的自己(moral self)**へと成長するための過程を描いたものと再評価できます。
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自己と他者の間にある「境界」を意識しつつ、
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社会的承認と内的整合性を統合しながら、
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倫理的判断力と行為能力を育てていく
この意味で青年期は、「哲学的自己の萌芽期」であり、**“よく生きるとは何か”**という根源的な問いに社会的実践として応答する時期でもあるのです。
3. 自立と他者との関係
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親からの心理的自立:経済的には依存していても、精神的に独立しようとする動き。
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他者理解の深化:友人関係、恋愛、対立経験を通して多様な視点や共感能力が育つ。
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社会的役割の獲得:進学・就職・社会活動を通じて、自分が社会の一員としてどのように関われるかを模索。
4. 青年期の倫理的課題
課題 | 説明 |
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自己決定 | 親や教師の意見に依存せず、自分で選択し責任を負う力。 |
倫理的ジレンマ | 自由の中で何を選ぶか、他者との違いをどう受け入れるか。 |
社会的アイデンティティ | 国籍、性別、文化、SNSなど多重的な自分をどう統合するか。 |
5. 現代社会における青年期の変化
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青年期の長期化(大人になれない若者)
進学や非正規雇用の増加、晩婚化などにより、社会的な「大人」の定義が曖昧に。 -
情報社会と自己像の揺らぎ
SNSやゲームの中の「もう一人の自分」が現実の自分とのギャップを生み、自己像が揺らぎやすい。
🌱 哲学的補足:ソクラテスに学ぶ「よく生きる」とは?
青年期の問いかけ「どう生きるべきか」は、古代ギリシアの哲学者ソクラテスが生涯をかけて探求したものでもあります。
彼の「無知の知」や「魂への配慮」は、自分を知り、他者と対話しながら真理を探究するという、倫理の原点に通じます。
1. 青年期の問い「よく生きるとは何か?」とソクラテスの思想
青年期に多くの人が直面する根源的な問い──
「私はどのように生きるべきか」「本当に価値ある生き方とは何か?」──
これはまさに古代ギリシアの哲学者 ソクラテス(B.C.469〜B.C.399) が、生涯をかけて問い続けたテーマです。
2. 「無知の知」──本当の知とは何か
ソクラテスの有名な言葉に「無知の知(I know that I know nothing)」があります。これは、自分が本当に何も知らないということを自覚する者こそが、真の知者に近づくという意味です。
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青年期は「自分には正解がわからない」と気づく時期でもあります。
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それは決して「弱さ」ではなく、「問いを発する能力」の芽生えです。
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ソクラテスはこの姿勢こそが哲学の出発点だとしました。
この「無知の自覚」は、インターネットなどで膨大な情報に触れる現代の青年にも大切な姿勢です。知識の量よりも「何を問い、どう考えるか」が重要なのです。
3. 魂への配慮(epimeleia heautou)──自分を深く知ること
ソクラテスは「魂(プシュケー)への配慮」という言葉を用いて、外面的な成功や快楽ではなく、内面の充実・魂の健康こそが本当の「よい生き方」であると説きました。
「善く生きること、それこそが最も大切なことである。」
この思想は、自己実現やアイデンティティの模索に悩む青年に対し、「他人にどう見られるか」ではなく、「自分がどうありたいか」を問うきっかけとなります。
4. 問答法(ディアレクティケー)──対話による自己発見
ソクラテスの方法は、講義や説得ではなく、「問いかけ」による対話(ソクラテス式問答法)です。
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質問を重ねることで、相手が自分で矛盾や真理に気づく。
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これは「知識を与える教育」ではなく、「考える力を引き出す教育」です。
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青年期の教育や倫理的成長において、他者との対話を通じた自己認識の深化は非常に重要です。
この方法論は現代の教育でも重視されており、批判的思考・対話型学習の源流とも言えます。
5. 社会に生きる責任としての倫理
ソクラテスは「法を破ってはならない」として、自らの死刑判決に逆らわず毒を仰ぎました(『クリトン』より)。
ここには、自分の信念と社会との関係をどう調和させるかという、青年期にも通じる倫理的葛藤があります。
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自分の意見や正義が社会と衝突したとき、どう生きるか?
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内面の正しさと社会的責任をどうバランスさせるか?
これもまた、青年期の自己形成に欠かせないテーマです。
📝まとめ:なぜソクラテスは現代に必要なのか?
視点 | 内容 |
---|---|
無知の知 | 自分の限界を知ることから思考は始まる |
魂への配慮 | 見た目や地位よりも内面の誠実さが重要 |
問答法 | 自分と他者との対話を通じて学ぶ力 |
生き方の倫理 | 信念を貫くことと社会に生きる責任 |
ソクラテスの哲学は、「自分を知ること」が最も深い倫理的行為であると教えています。
そしてそれは、まさに青年期における最大の課題そのものです。
📌まとめ
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青年期は、身体・心理・社会の変化が交差する時期。
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自我の確立、社会への自立、倫理的判断力の獲得が主な課題。
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哲学・思想の学びを通じて、「よく生きる」とは何かを主体的に考える訓練が求められる。
国立個別指導塾の場所
【監修者】 | 宮川涼 |
プロフィール | 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。 |
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