第2編 第4章:イスラームとキリスト教の成立と展開 ─ 一神教の倫理と歴史
【1】アブラハムの宗教とは何か
イスラームとキリスト教は、ユダヤ教とともに「アブラハムの宗教(Abrahamic Religions)」と呼ばれる一神教の伝統に属します。この三宗教は、預言者アブラハム(イブラーヒーム)を信仰の祖とし、唯一神への信仰、啓示、律法、終末思想、救済など多くの共通要素を持ちながら、歴史的展開の中でそれぞれ異なる信仰体系を築いてきました。
一神教の特徴は、
- 神の絶対性と超越性
- 人間の自由意志と責任
- 終末論的な時間観(世界の終わり、最後の審判) にあります。これらの宗教は、人間の生き方を「神の意志への応答」として捉え、倫理と信仰を不可分のものとします。
【2】キリスト教の成立と思想
歴史的背景と成立過程
紀元前後のパレスチナ地方では、ローマ帝国の支配下でユダヤ教の救世主(メシア)待望が高まっていました。その中でイエス・キリストが登場し、愛と赦しを中心とした福音を説きました。
- イエスはユダヤ教の律法を内面化し、「神への愛」と「隣人愛」を教義の核心とした
- 十字架刑と復活は、原罪からの人類の贖いを意味する出来事とされる
- 弟子たちの宣教により、キリスト教共同体(教会)が形成され、パウロによって異邦人にも拡大された
教義の中心
- 三位一体論:父なる神、子なるキリスト、聖霊の一致
- 原罪と救済:人間は罪に陥っており、救いは神の恩寵によって与えられる
- 復活と永遠の命:信仰によって来世において神と共に永遠に生きることができる
歴史の展開
- 313年、ローマ帝国により公認(ミラノ勅令)→国教化(テオドシウス帝)
- 1054年、カトリックと東方正教会に分裂(大シスマ)
- 16世紀、ルター・カルヴァンらによる宗教改革 → プロテスタントの誕生
キリスト教は、ヨーロッパ文明の倫理・法・芸術の基盤となり、近代思想においても「良心」や「個人の尊厳」といった概念に影響を与えました。
【3】イスラームの成立と思想
歴史的背景と成立
7世紀、アラビア半島メッカの商人ムハンマドは、洞窟で神(アッラー)からの啓示を受けました。これは預言者ムハンマドを通じて伝えられた「クルアーン(コーラン)」に記録され、イスラームの教典となります。
- イスラームはユダヤ教・キリスト教と連続しつつ、「最後の啓示」として位置づけられる
- ムハンマドは「封印の預言者」として、預言の系譜の完成者とされる
教義の中心
- 六信(信仰の6要素):神・天使・啓典・預言者・来世・天命
- 五行(信仰の5つの柱):信仰告白、礼拝、喜捨、断食、巡礼
- イスラーム法(シャリーア)は、日常生活のあらゆる側面を規定し、信仰と実践が一体化している
歴史の広がりと文化
- イスラームは、ムハンマド没後、正統カリフ時代を経て急速に中東・北アフリカ・中央アジア・スペインに拡大
- 哲学・数学・天文学・医学などの分野で「イスラーム黄金時代」を築き、ヨーロッパにも大きな影響を与えた
イスラームの倫理は、「共同体の調和と公正」「他者への慈悲」「神への服従」の中に表現され、現代においても多くの信徒にとって日々の実践の源泉となっています。
【4】一神教における人間観と倫理観の共通性と差異
観点 |
キリスト教 |
イスラーム |
神との関係 |
恩寵と信仰による愛の関係 |
絶対的服従と従順 |
人間観 |
原罪を背負うが、神の似姿として創られた存在 |
神に試される自由意志を持った責任ある存在 |
倫理 |
隣人愛、赦し、良心に従った行動 |
義務、慈悲、公正、共同体の秩序維持 |
終末観 |
最後の審判と復活、天国と地獄 |
同様に最後の審判、永遠の報い・罰 |
両宗教は共に、「人間の尊厳」を神との関係の中に見出し、信仰と倫理が不可分であることを強調します。その一方で、救済の方法や神との関係の構築の仕方に違いが見られます。
✅ まとめ:一神教の倫理は「責任ある自由」を問う
イスラームとキリスト教は、いずれも人間に「自由な意志による神への応答」を求めます。
- 神から与えられた自由をどう使うかという責任
- 他者と共に生きるという倫理的選択
- 現世における行いが来世において裁かれるという時間的構造
一神教の倫理は、信仰の内面性と行動の社会性を統合し、「正しく生きること」の意味を根源から問い直す視座を提供します。
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個別指導塾
【監修者】 |
宮川涼 |
プロフィール |
早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。 |
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早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。