最高裁判所第3小法廷 平成24年(受)第1311号 損害賠償請求事件 平成25年12月10日-再審弁護人立会禁止事件

【判例番号】 L06810060
損害賠償請求事件
【事件番号】 最高裁判所第3小法廷判決/平成24年(受)第1311号
【判決日付】 平成25年12月10日
【判示事項】 死刑確定者又はその再審請求のために選任された弁護人が再審請求に向けた打合せをするために刑事施設の職員の立会いのない面会の申出をした場合にこれを許さない刑事施設の長の措置が国家賠償法1条1項の適用上違法となる場合
【判決要旨】 死刑確定者又はその再審請求のために選任された弁護人が再審請求に向けた打合せをするために刑事施設の職員の立会いのない面会の申出をした場合に,これを許さない刑事施設の長の措置は,上記面会により刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあると認められ,又は死刑確定者の面会についての意向を踏まえその心情の安定を把握する必要性が高いと認められるなど特段の事情がない限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用して死刑確定者の上記面会をする利益を侵害するだけではなく,上記弁護人の固有の上記面会をする利益も侵害するものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法となる。
【参照条文】 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律2編2章11節2款(面会)
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律121
刑事訴訟法39-1
刑事訴訟法440-1
国家賠償法1-1
【掲載誌】 最高裁判所民事判例集67巻9号1761頁
裁判所時報1593号3頁
判例タイムズ1398号58頁
判例時報2211号3頁
LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】 ジュリスト1468号87頁
ジュリスト1479号52頁
ジュリスト1479号199頁
判例時報2232号132頁
法学新報122巻11~12号367頁
法学セミナー59巻3号112頁
法曹時報66巻8号2269頁
刑事法ジャーナル41号205頁
       主   文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理   由 上告代理人青野洋士ほかの上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。)について 1 本件は,拘置所に収容されている死刑確定者及びその再審請求のために選任された弁護人(以下「再審請求弁護人」という。)である被上告人らが,拘置所の職員の立会いのない面会を許さなかった拘置所長の措置が違法であるとして,上告人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,その被った精神的苦痛について慰謝料等の支払を求める事案である。 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 (1)ア 被上告人X1は,強盗殺人等被告事件(以下「本件刑事事件」という。)の被告人として起訴され,主として量刑を争っていた。本件刑事事件の第1審及び第1次控訴審は被上告人X1を無期懲役に処する旨の判決をしたが,検察官の上告に係る第1次上告審は,原判決を破棄し,本件刑事事件を原裁判所に差し戻す判決をした。そして,第2次控訴審は死刑判決を,第2次上告審は被上告人X1の上告を棄却する判決をそれぞれ言い渡し,上記死刑判決は確定した。以後,被上告人 X1は,死刑確定者として広島拘置所に収容されている。 イ 被上告人X2及び同X3(以下「被上告人X2ら」という。)は,本件刑事事件における第2次控訴審の国選弁護人及び第2次上告審の私選弁護人となった弁護士である。 (2)ア 被上告人X1は,平成19年4月1日頃,本件刑事事件の再審請求の弁護人として被上告人X2らを選任した。被上告人X3は,同年6月5日,拘置所の職員の立会いのある面会(以下「一般面会」という。)において,被上告人X1に対し,本件刑事事件の再審請求の準備をする旨伝えた。 イ 被上告人X1は,平成19年6月25日,広島拘置所の職員との面接において,被上告人X3から再審請求の準備をする旨伝えられたが心情及び体調面での不安要素はない旨述べた。 (3)ア 被上告人X2らは,平成20年5月2日,被上告人X1の再審請求弁護人として再審請求に関する打合せのために必要であるとして,広島拘置所の担当部署に被上告人X1との同拘置所の職員の立会いのない面会(以下「秘密面会」という。)の申出をするとともに,被上告人X2は,同拘置所の職員に対し,被上告人X1の再審請求に係る弁護人選任届を示した。被上告人X2らは,秘密面会において,再審請求の弁護方針を説明し,新たな精神鑑定についての被上告人X1の意向を確認するとともに,同弁護方針を裏付ける事実の有無につき,被上告人X1から事情を聞き出すことなどを予定していた。 これに対し,広島拘置所長は,被上告人らの秘密面会を許さなかった。ただし,広島拘置所の職員は,被上告人X2らに対し,次回の一般面会の開始後に被上告人らが再審請求に関して秘密とすることを要する内容の打合せを始める場合において,被上告人X1が立会いをする職員に秘密面会の申出をしたときは,その当否を検討する旨述べた。被上告人X2は,やむなく被上告人X1と一般面会をした上,被上告人X1に対し,次回には秘密面会で再審請求に関する打合せをすることができる旨伝えた。 イ 被上告人X1は,平成20年5月9日,広島拘置所の職員との面接において,再審請求に迷いがあり,被上告人X2らに対して再審請求をするか否かの結論を示していない旨述べた。 (4)ア 被上告人X2らは,平成20年7月15日,再審請求に関する打合せに入った段階で秘密面会に切り替えることを予定して,広島拘置所の担当部署に一般面会の申出をした上,被上告人X1と一般面会を行った。そして,被上告人X2らが近況報告等をした後,被上告人X1が立会いをする職員に秘密面会の申出をした。しかし,広島拘置所長は,被上告人らの秘密面会を許さなかった。そのため,被上告人X1が,上記一般面会において,被上告人X2らに対して再審請求をしてほしい旨述べていたにもかかわらず,被上告人らは,秘密面会をすることができず,再審請求に関する打合せをすることができなかった。 イ 被上告人X1は,平成20年7月25日,広島拘置所の職員との面接において,上記アの一般面会の際には再審の話が始まれば立会いがなくなるものと認識していたため,再審の話が始まっても立会いを付けると言われたことに気分を害して少し興奮した旨述べた。 (5) 被上告人X2らは,平成20年8月12日,広島拘置所の担当部署に被上告人X1との秘密面会の申出をしたが,広島拘置所長は,被上告人らの秘密面会を許さなかった。そのため,被上告人X2らは,やむなく被上告人X1と一般面会をした上,被上告人X1にその経緯を説明した。被上告人X2らは,上記一般面会において,被上告人X1が再審請求をする意思を確認したものの,再審請求に関する打合せをすることはできなかった。 3 原審は,平成20年5月2日,同年7月15日及び同年8月12日における被上告人らの前記各面会(以下「本件各面会」という。)において秘密面会を許さなかった広島拘置所長の措置(以下「本件各措置」という。)が被上告人ら全員の関係において国家賠償法1条1項の適用上違法となるとして,被上告人らの請求を一部認容した。所論は,秘密面会を許すか否かの措置は刑事施設の長の専門的,技術的な裁量に委ねられ,本件各措置は裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものではないというべきであるとともに,再審請求弁護人には秘密面会をすることにつき固有の利益が認められるべきではないのに,本件各措置が被上告人ら全員の関係において国家賠償法1条1項の適用上違法となるとした原審の判断には,法令解釈の誤りがあるというのである。 4(1) 刑事施設の長は,被収容者と外部の者との面会に関する許否の権限を有しているところ,当該施設の規律及び秩序の維持,被収容者の矯正処遇の適切な実施等の観点からその権限を適切に行使するよう職務上義務付けられている(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)第2編第2章第11節第2款)。そして,死刑確定者については,同法121条本文において,その指名する職員が面会に立ち会うか,又はその面会の状況の録音若しくは録画をすることを原則としつつ,同条ただし書は,死刑確定者の訴訟の準備その他の正当な利益の保護のため秘密面会を許すか否かの措置を刑事施設の長の裁量に委ね,当該正当な利益を一定の範囲で尊重するよう刑事施設の長に職務上義務付けている。 ところで,刑訴法440条1項は,検察官以外の者が再審請求をする場合には,弁護人を選任することができる旨規定しているところ,死刑確定者が再審請求をするためには,再審請求弁護人から援助を受ける機会を実質的に保障する必要があるから,死刑確定者は,再審請求前の打合せの段階にあっても,刑事収容施設法121条ただし書にいう「正当な利益」として,再審請求弁護人と秘密面会をする利益を有する。 また,上記の秘密面会の利益が保護されることは,面会の相手方である再審請求弁護人にとってもその十分な活動を保障するために不可欠なものであって,死刑確定者の弁護人による弁護権の行使においても重要なものである。のみならず,刑訴法39条1項によって被告人又は被疑者に保障される秘密交通権が,弁護人にとってはその固有権の重要なものの一つであるとされていることに鑑みれば(最高裁昭和49年(オ)第1088号同53年7月10日第一小法廷判決・民集32巻5号820頁),秘密面会の利益も,上記のような刑訴法440条1項の趣旨に照らし,再審請求弁護人からいえばその固有の利益であると解するのが相当である。 上記のとおり,秘密面会の利益は,死刑確定者だけではなく,再審請求弁護人にとっても重要なものであることからすれば,刑事施設の長は,死刑確定者の面会に関する許否の権限を行使するに当たり,その規律及び秩序の維持等の観点からその権限を適切に行使するとともに,死刑確定者と再審請求弁護人との秘密面会の利益をも十分に尊重しなければならないというべきである。 したがって,
死刑確定者又は再審請求弁護人が再審請求に向けた打合せをするために秘密面会の申出をした場合に,これを許さない刑事施設の長の措置は,秘密面会により刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあると認められ,又は死刑確定者の面会についての意向を踏まえその心情の安定を把握する必要性が高いと認められるなど特段の事情がない限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用して死刑確定者の秘密面会をする利益を侵害するだけではなく,再審請求弁護人の固有の秘密面会をする利益も侵害するものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法となると解するのが相当である。
(2) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,被上告人らは,被上告人X1の再審請求に向けた打合せをするために本件各面会につき秘密面会の申出をしているところ,本件各面会に先立ち,被上告人X1は,広島拘置所の職員との面接において,被上告人X3から再審請求の準備をする旨伝えられたが心情面での不安要素はないなどと述べていたというのであり,その他本件に現れた一切の事情を勘案しても,前記特段の事情があることをうかがうことはできない。 そうすると,本件各措置は,広島拘置所長が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用して被上告人らの前記各利益をいずれも侵害したものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法となるというべきである。所論の点に関する原審の判断は,以上の趣旨をいうものとして是認することができる。論旨は採用することができない。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官 大谷剛彦 裁判官 岡部喜代子 裁判官 寺田逸郎 裁判官 大橋正春 裁判官 木内道祥)
2269 最高裁判所判例解説(235) 【22】 死刑確定者又はその再審請求のために選任された弁護人が再審請求に 向けた打合せをするために刑事施設の職員の立会いのない面会の申出をし た場合にこれを許さない刑事施設の長の措置が国家賠償法1条1項の適用 上違法となる場合 〔判決要旨〕 (平成24年(受第1311号 同25年12月10日第三小法廷判決 棄却 【第1審広島地裁 第2審広島高裁 民集67巻9号1761頁 死刑確定者又はその再審請求のために選任された弁護人が再審請求に向け た打合せをするために刑事施設の職員の立会いのない面会の申出をした場合 に、これを許さない刑事施設の長の措置は、上記面会により刑事施設の規律 及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあると認められ、又は死刑確定者の 面会についての意向を踏まえその心情の安定を把握する必要性が高いと認め られるなど特段の事情がない限り、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用し て死刑確定者の上記面会をする利益を侵害するだけではなく、上記弁護人の 固有の上記面会をする利益も侵害するものとして、国家賠償法1条1項の適 用上違法となる。 〔参照条文〕 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(刑事収容施設法) 第2 編第2章第11節第2款 面会、121条,刑訴法39条1項,440条1項,国家賠 償法1条1項 〔解説〕 第1 事案の概要 1概要 本件は、拘置所に収容されている死刑確定者X及びその再審請求のため に選任された弁護人(以下「再審請求弁護人」という。) 2名が、拘置所の職 員の立会いのない面会(以下「秘密面会」という。)を許さなかった拘置所長 (236) 66巻8号 2270 の措置が違法であるとして、Y(国)に対し、 国家賠償法1条1項に基づき、 その被った精神的苦痛について慰謝料等の支払を求めた事案である。 本件の争点は、①死刑確定者及び再審請求弁護人に秘密面会の利益が認 められるか否か、②秘密面会を許さない措置が違法となるか否かについて の判断基準である。 2 事実関係 (1) ✗は、平成19年4月1日頃,死刑判決が確定した強盗殺人等被告事件 につき、再審請求をするために弁護人2名を選任した。そして、当該弁護人 ら(以下「本件再審請求弁護人ら」という。) の1名は、同年6月5日,拘置所 の職員の立会いのある面会(以下「一般面会」という。)において、 Xに対し、 上記事件の再審請求の準備をする旨伝えた。Xは、同月25日、 拘置所の職員 との面接において、再審請求弁護人から再審請求の準備をする旨伝えられた が心情及び体調面での不安要素はない旨述べていた。 (2) 本件再審請求弁護人らは、平成20年5月2日,同年7月15日及び同年 8月12日の合計3回にわたり、 Xの再審請求弁護人として再審請求に関する 打合せのために必要であるとして、拘置所の担当部署に秘密面会の申出をし た。これに対し、拘置所長は、いずれも秘密面会を許さなかった。そのた め、Xらは、再審請求に関する打合せをすることができなかった。 本件再審請求弁護人らは、秘密面会において再審請求の弁護方針を説明 し、新たな精神鑑定についてのXの意向を確認するとともに、同弁護方針 を裏付ける事実の有無につき、Xから事情を聞き出すことなどを予定してい た。 なお、上記各申出に先立ち、本件再審請求弁護人らの1名は、拘置所の職 員に対し、Xの再審請求に係る弁護人選任届を示していた。 (3) ✗は、平成20年7月25日,拘置所の職員との面接において、同月15日 の一般面会の際には再審の話が始まれば立会いがなくなるものと認識してい たため、再審の話が始まっても立会いを付けると言われたことに気分を害し 2271 最高裁判所判例解説(237) て少し興奮した旨述べた。 3 1審及び原審の判断 (1) 1審は、死刑確定者及び再審請求弁護人に秘密面会の利益があること を前提とした上、次のとおり判示して、平成20年7月15日及び同年8月12日 におけるXらの前記各面会において秘密面会を許さなかった拘置所長の措 置が×ら全員の関係において国家賠償法1条1項の適用上違法となるとし て、Xらの請求につき慰謝料11万円及び遅延損害金の各支払を求める限度で 認容した。 「刑事収容施設法121条は、刑事施設の長は、死刑確定者の面会につき、刑 事施設の職員を当該面会に立ち会わせることを原則とする一方で、死刑確定 者の訴訟の準備その他の正当な利益の保護のため職員の立会いをさせないこ とを適当と認める事情がある場合において、相当と認めるときは、立会いを 省略できる旨を定めている。そして、同条ただし書に基づいて立会いをしな いこととするか否かについては、死刑確定者の正当な利益の保護する必要性 と、死刑確定者の心情の安定や、死刑の執行に至るまでの間社会から厳重に 隔離してその身柄を確保すること、当該刑事施設内の規律及び秩序を維持す ること等の必要性を比較考量して判断することが当然に予定されているとい えるから、その判断は、刑事施設の長の裁量に委ねられていると解される。 したがって、刑事施設の長のこの判断については、その基礎とされた重要な 事実に誤認があること等により判断の基礎を欠くことになる場合、又は事実 に対する評価が明らかに合理性を欠くとか判断の過程において考慮すべき事 情を考慮していないこと等によりその内容が社会通念に照らして著しく妥当 性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権の範囲を逸脱し又は濫用した ものとなり、かつ、上記判断に当たり職務上通常尽くすべき注意義務が尽く されていないと認められる場合に限り、国家賠償法上も違法であるとの評価 を受けるというべきである。」 (2) 原審は、死刑確定者が弁護人からの援助を受ける機会を確保すること (238) 66巻8号 2272 は必要であるから、死刑確定者には秘密面会の利益が認められ、また、刑訴 法39条1項が保障する秘密交通権は弁護人固有の権利であることを考慮すれ ば、上記秘密面会の利益は、弁護人固有の法的利益でもあると判示した。そ して、原審は、刑事収容施設法121条ただし書にいう 「適当とする事情」に 当たるか否かにつき、平成20年5月2日,同年7月15日及び同年8月12日に おける×らの前記各面会は、再審請求手続に関する打合せのために選任し た弁護人らとの面会であったと認められるから、刑事収容施設法121条ただ し書にいう「適当とする事情」があったものと認められると判示した。さら に、原審は、同条ただし書にいう「相当と認めるとき」に当たるか否かにつ き、次のとおり判示してこれを肯定し、秘密面会を許さなかった拘置所長の 措置(以下「本件各措置」という。) がXら全員の関係において国家賠償法1 条1項の適用上違法となるとして、 Xらの請求につき慰謝料18万円及び遅延 損害金の各支払を求める限度で認容した。 「刑事事件において弁護人との秘密交通権を保護する意味・価値を考慮す れば、死刑確定者であっても、再審請求手続の打合せにおいて、弁護人と秘 密交通する利益は、これを制限する他の法益があると認められるなどの事情 のない限り、これを正当な利益であると認めることができる」 第2 上告受理申立て理由及び本判決 1 上告受理申立て理由 Yが上告受理の申立てをして、上告受理決定がされた。上告受理申立て理 由の要旨は、次のとおりである。なお、Xらの上告及び上告受理の申立て は、上告受理決定と同日付けで棄却兼不受理決定がされている。 秘密面会を許すか否かの措置は刑事施設の長の専門的、技術的な裁量に委 ねられ、本件各措置は裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものではな いというべきであるとともに、再審請求弁護人には秘密面会をすることにつ き固有の利益が認められるべきではないのに、本件各措置がXら全員の関 係において国家賠償法1条1項の適用上違法となるとした原審の判断には、 2273 最高裁判所判例解説(239) 法令解釈の誤りがある。 2 本判決 (1) 本判決は、死刑確定者に秘密面会の利益が認められるか否かにつき、 「刑訴法440条1項は、検察官以外の者が再審請求をする場合には、弁護人を 選任することができる旨規定しているところ、死刑確定者が再審請求をする ためには、再審請求弁護人から援助を受ける機会を実質的に保障する必要が あるから、死刑確定者は、再審請求前の打合せの段階にあっても、刑事収容 施設法121条ただし書にいう『正当な利益』として、再審請求弁護人と秘密 面会をする利益を有する。」としてこれを肯定した。また、本判決は、再審 請求弁護人に秘密面会の利益が認められるか否かにつき、「秘密面会の利益 が保護されることは、面会の相手方である再審請求弁護人にとってもその十 分な活動を保障するために不可欠なものであって、死刑確定者の弁護人によ る弁護権の行使においても重要なものである。のみならず、刑訴法39条1項 によって被告人又は被疑者に保障される秘密交通権が、弁護人にとってはそ の固有権の重要なものの一つであるとされていることに鑑みれば(最高裁昭 和49年()第1088号同53年7月10日第一小法廷判決・民集32巻5号820頁),秘密面 会の利益も、上記のような刑訴法440条1項の趣旨に照らし、再審請求弁護 人からいえばその固有の利益であると解するのが相当である。」としてこれ を肯定した。 (2) 以上を前提として、本判決は、秘密面会の利益の重要性に鑑みれば、 刑事施設の長は、死刑確定者の面会に関する許否の権限を行使するに当た り、死刑確定者と再審請求弁護人との秘密面会の利益をも十分に尊重しなけ ればならないとした上、秘密面会を許さない措置が違法となるか否かについ ての判断基準につき、「死刑確定者又は再審請求弁護人が再審請求に向けた 打合せをするために秘密面会の申出をした場合に、これを許さない刑事施設 の長の措置は、秘密面会により刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ず るおそれがあると認められ、又は死刑確定者の面会についての意向を踏まえ (240) 66巻8号 2274 その心情の安定を把握する必要性が高いと認められるなど特段の事情がない 限り、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用して死刑確定者の秘密面会をす る利益を侵害するだけではなく、再審請求弁護人の固有の秘密面会をする利 益も侵害するものとして、国家賠償法1条1項の適用上違法となると解する のが相当である。」と判示した。 (3) 本件事案の当てはめにおいて、本判決は、「本件各面会に先立ち、× は、広島拘置所の職員との面接において、再審請求弁護人から再審請求の準 備をする旨伝えられたが心情面での不安要素はないなどと述べていたという のであり、その他本件に現れた一切の事情を勘案しても、前記特段の事情が あることをうかがうことはできない。」として、本件各措置はXらの秘密面 会の利益をいずれも侵害したものとして、国家賠償法1条1項の適用上違法 となるとした。 第3 説明 1 はじめに 秘密面会の利益は、死刑確定者が再審請求をするに当たって再審請求弁護 人から援助を受ける機会を保障するために重要なものといえ、刑訴法440条 1項にいう弁護人依頼権を実質的に保障するものである。他方,刑訴法39条 によって保障される接見交通権は、被疑者が刑事事件手続で防御をするに当 たって弁護人から援助を受ける機会を保障するために重要なものであり、憲 法34条にいう弁護人依頼権を実質的に保障するものである。 このように、刑事収容施設法にいう秘密面会及び刑訴法にいう接見交通権 とは、規律する法自体はそれぞれ異なるものの、弁護人依頼権を実質的に保 障するという観点からすれば、同じような意義を有するものである。 そこで、秘密面会の利益の有無及び性質を検討するに当たり、その意義を めぐり判例法理が既に展開している接見交通権について、まず検討を加える こととする。 2 接見交通権の意義等 2275 最高裁判所判例解説(241) 接見交通権の意義につき判示した当審のリーディングケースは、最一小判 昭和53年7月10日民集32巻5号820頁(杉山事件判決)である。杉山事件判決 は、刑訴法39条3項が規定する「捜査のため必要があるとき」という接見指 定の要件につき、「捜査の中断による支障が顕著な場合」をいうものと判示 するとともに、接見交通権は弁護人依頼権を保障する憲法34条に由来し、弁 護人の援助を受けることができるための刑事事件手続上最も重要な基本的権 利であり、弁護人からいえばその固有権の最も重要なものの一つであると判 (注1) 示した点において、重要な意義を有するものである。 そして、最大判平成11年3月24日民集53巻3号514頁 (安藤・斉藤大法廷判 決)は、杉山事件判決が上記に説示するところを確認するとともに、,憲法34 条前段は弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障するもので あり、接見交通権は、同条の趣旨にのっとり、弁護人等から援助を受ける機 会を確保する目的で設けられたのであるから、同条前段の保障に由来するも (注2) のであると判示している。 ところで、我が国の刑事事件手続は、当事者主義を基本としながら捜査に (注3) 関しては多分に糾問主義を残しているとされ、被疑者の供述を得ることによ り事案の真相を明らかにすることが不可欠であるとして、被疑者は、搜査手 続の当事者ではなく、取調べの客体として位置付けられていると指摘されて (注4) きた。安藤・斉藤大法廷判決も,刑訴法39条3項の合憲性を判断する前提と して、捜査権を行使するためには身体を拘束して被疑者を取り調べる必要が 生ずることもあるとした上、接見交通権が憲法の保障に由来するからといっ て、これが刑罰権ないし捜査権に絶対的に優先するような性質のものという ことはできないとしている。 そして、法制審議会の新時代の刑事司法制度特別部会が平成25年1月にと りまとめた「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」21頁において も、被疑者の取調べへの弁護人の立会いの可否という点につき、米国,英 国,フランス,ドイツ, イタリア及び韓国は、基本的には被疑者取調べに弁 (242) 66巻8号 2276 (注5) 護人の立会いを認めているとされており、人権保障の国際的調和という観点 から、これを認めるべきとする指摘もされている。例えば米国では、いわゆ るミランダ判決(Miranda v. Arizona, 384U. S.436 (1966))が、捜査手続につ いても、糾問主義であってはならず、自己負罪特権を保障する合衆国憲法修 正5条は当事者主義を保障するための重要な規定であり、同条を根拠とし て、身柄拘束された被疑者には取調べに先立ち、①黙秘権のあること、②供 述したことは公判廷で不利益な証拠として用いられ得ること、③弁護人の立 会いを求める権利のあること、④弁護人を依頼する経済的余裕がない場合に は取調べに先立って弁護人の選任を求める権利のあることを告知しなければ ならず、被疑者が黙秘し又は弁護人の立会いを求める場合には取調べを中止 しなければならない旨判示し、上記のいわゆるミランダ法則が実務上も定着 (注6) しているところである。 この点について、上記基本構想21頁では、被疑者の取調べに弁護人を立ち 会わせることを被疑者の権利として認める以上、弁護人が立ち会えなければ 取調べを行うことができないこととなるし、何よりも取調べという供述収集 手法の在り方を根本的に変質させて、その機能を大幅に減退させることにな (注7) るおそれが大きいなどという反対意見もあり、一定の方向性を得るには至っ ていない。そこでは、弁護人による援助は、むしろ、接見を通じて十分なも (注8) のとなるよう図られるべきであることが指摘されている。 もとより、刑事司法の在り方は各国が採用する法体系や社会の実情等に応 じて変わり得るものであり、取調べという点のみを切り出して単純には比較 し得ないものではあろうが、我が国では、上記のとおり、捜査手続において 糾問主義への親和性を残していると度々指摘されているところであり、これ を前提としつつも当事者主義をできるだけ保障しようとする観点から、弁護 人の後見的役割が重視されてきている。このことが、接見を通じた弁護人に よる援助が刑事事件手続上極めて重要なものとして位置付けられ、接見交通 (注9) 権が身柄拘束中の被疑者の権利であるのみならず、判例法理上弁護人にとっ

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【監修者】 宮川涼
プロフィール 早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。
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ryomiyagawa Founder
早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。
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